自治体の事務クリエイティブ枠の採用について

今回も少し趣向を変えて、最近話題になった自治体の事務クリエイティブ枠についてみて行こうと思います。

令和の時代になって遂に行政の試験にもクリエイティブ採用が行われるようになり、時代は変わってきたなあ、というのが率直な感想です。

目次

神戸市の事務「デザイン・クリエイティブ枠」について

まずは2019年度より、「デザイン・クリエイティブ枠」の採用を行なっている神戸市の試験概要についてみて行きましょう。

政令指定都市においては初の試みという事で、その界隈の方達の間ではかなり話題になったようです。

ここでは、一般的な大学卒の試験区分の方で考察してきます。

一方で、「デザイン・クリエイティブ枠」ではない、一般的な大学卒の事務区分の試験情報についても簡単に見ておきましょう。

※一般的な大学卒の事務区分の試験情報についても、参考までにリンクを貼っておきます。↓

同じ事務職としての採用試験でも、

①デザインクリエイティブ枠の大学卒の事務区分は受験者数46人に対して、合格者数2人(倍率23倍)
②一般的な大学卒の事務区分の方は受験者数504人に対して、合格者数105人(倍率約5倍)

となっています。①の「クリエイティブ枠」については、デザイン業界の就職試験に比べると母数自体が少ないので合格する可能性は高いかも知れません。

採用人数は年によって変動するようなので、あくまで参考ということになります。

①と②は同じ事務区分になるのですが、よりわかりやすく①を「クリエイティブ枠」、②を「一般枠」と呼ぶことにします。

さて、ここで①のクリエイティブ枠についてもう少し詳しく見ていくことにします。

ここで、まず最初に気をつけて見なければいけないのは、Q&A記載のQ1の質問と回答になります。

「Q1.デザイン・クリエイティブ枠で採用された職員はどのような業務に従事しますか。」

→ デザイン・クリエイティブ枠で採用された職員はデザイン等の専門職ではなく,あくまで「総合事務」としての採用 となります。そのため,例えば広報物を作成する場合も,ご自身で何かデザインをするというよりは,大学で学んだ知識や経験を生かして事業者と調整しながらよりよいものを作っていくイメージとなります。

ここで僕は「??????????」となりました。

自分で何もデザインしないのに、デザイン・クリエイティブ枠って言っていいの??というのが率直な感想です。

昨今、なんでもかんでも「クリエイティブ」という言葉を付ければ人を集めらるというような風潮は、いかかがなものか?と感じるところがあります。

「クリエイティブ」とか「デザイン」という耳障りの良い言葉を使ってはいるものの、元デザイン業界にいた身からすると、その実態は全くクリエイティブな内容になっていない事業や仕事が多々あったりします。

この神戸市の試験概要をきちんと読み込んで見ると、これって行政と事業者の間に入って調整を行うコーディネーター的な役割なのでは?と思ってしまいます。

デザイン制作会社に依頼するときの共通言語や専門知識などを駆使して、行政内部で対等な提案できる人が欲しいのかな?というのが僕の最初の印象でした。

そのことを踏まえた上で試験に望むなら良いのですが。

この採用試験案内を読む限りでは、自身が手がけたデザインや創作物を作る人材は神戸市は求めていない、ということになりますね。

ただ、自分のように 事務>クリエイティブ という信念のもと、大枠は事務の仕事をメインとするものの、できればクリエティブな仕事にも関わっていたいという目標設定があるなら、神戸市の試験にチャレンジしてみるのもアリかと思います。

自分の立場に置き換えて考えて見ると、デザインの知識・技術・経験はあるので、事業者との調整を図りながら目標に向かって進んでいく仕事の仕方は中々良いかも?と思います。

自分のように全くデザインとは関係のない組織の事務職に就く選択もありますが、デザインと関連ある組織の事務職として就職する選択は、興味を持ち続け長く仕事を続けられる可能性が高まります。

もう少し年齢が若ければ自分も神戸市のクリエイティブ枠試験を受けるのもありだったかもなあ、と思います。

ただ、デザイン・クリエイティブ枠に限らず、神戸市の採用試験は全て年齢制限があるので、自身が受験資格を満たしているかを事前に採用試験案内で確認しておく必要があります。

市川市の事務「クリエイティブ枠」について

一方で、同じ「クリエイティブ枠」という名称がついているものの、千葉県市川市の事務「クリエイティブ枠」採用では、求められている人材が神戸市のものとは全く異なります。

こちらも神戸市に続き、2020年度より新たに採用試験において事務「クリエイティブ枠」が創設されました。

ただし、毎年クリエイティブ枠での採用を行っているわけではないようです。令和2年度と令和3年度は募集があったようですが、令和4年度は募集が無いようです。

参考までに過去のリンクを貼っておきます。

市川市公式Webサイト

市川市は神戸市と異なり、年齢や学歴制限を撤廃していますね。比較的受験者にとっては有利な条件とも言えますね。

一方で、通常の一般行政職としての事務の枠は大学卒業が条件であると同時に28歳までという年齢制限が設けられています。

過去(令和2年度)の「クリエイティブ枠」と「一般行政職」、それぞれの事務の倍率を見てみると、

①クリエイティブ枠の受験者数48人に対して、合格者数1人(倍率48倍
②一般的な大学卒の事務区分の方は受験者数477人に対して、合格者数45人(倍率約10.6倍)

となっています。①の「クリエイティブ枠」については、神戸市の採用枠と比較しても相当の難関試験と言えます。

こちらも、採用人数は年によって変動するようなので、あくまで参考ということになります。

さて、肝心の職務内容について神戸市の時と同様に見ていくことにしましょう。受験案内によると

市長部局、各行政委員会等に勤務し、主に一般行政(政策、企画、広報、芸術文化、経済、福祉、 こども、保健、まちづくり、教育などの幅広い業務)に従事します。

と記載があります。そして、求める人材については、

(1)芸術分野の素養があり、創造し表現することが得意な人
(2)これまでの行政にない斬新な視点や発想力、企画力のある人

と、きちんと求める人材についての記載があります。神戸市の求める人材と異なり、市川市のクリエイティブ枠は、はっきりとデザインの能力に長けている人を求めていることが分かります。

その証拠に、市川市の発信しているtwitterを見てみるとクリエイティブ枠で採用された職員の制作物が写真と共に紹介されています。

プロのデザイナーが作ったと言っても遜色ない位にしっかりとデザインされていますね!

年齢制限枠が撤廃されていることもあり、おそらく過去にデザイナーだった方が転職して採用されているのかも知れません。

広報などのデザインについては募集案内にあるようにデザインの素材自体は、一般行政の仕事内容である「政策、企画、広報、芸術文化、経済、福祉、こども、保健、まちづくり、教育」等になっていますね。

真面目な内容をいかにデザインして分かりやすく興味を持ってもらえるよう発信できるか、試行錯誤した後が見えます。

行政の世界は比較的お堅い内容が多いのだと思うのですが、これくらいの温度で情報発信してもらえると興味を持って読み進められそうです。

ここまで素材を昇華するには、かなりのデザイン力が要求されると思いますが、それを感じさせないほど、楽しい雰囲気で制作物が作られているのは好印象と言えます。

普通に「公務員の方が作ったもの」とだけ聞いただけだったら、かなり驚くほどの技量とも言えます。

クリエイティブ枠を積極的に取り入れ、公務員の世界を内側から変えていく姿勢はかなり先進的な取り組みと言えます。

一方で、制作物を職員自身が制作するということは、自分でデザインの合格ラインを決め、どこでフィニッシュするか?という問題も発生します。

通常の事務仕事であれば、締め切りまでに何をやればいいかが明確でそこまでの作業を終えたら確実に仕事の終わりを迎えます。

デザインのような業務は締め切りはあっても、何をどこまでやればいいか、デザインの質を担保するため、どこでフィニッシュするか?

という仕事の進め方に直結する問題が発生します。

「デザイン」と「事務」の領域を切り離すか or 切り離さないか

以上、「神戸市」と「市川市」のそれぞれの事務「クリエイティブ枠」の違いを見て来ましたが、同じクリエイティブ枠でも求める人材が全く異なることが分かります。

  • デザインと事務の仕事を全く切り離して「神戸市」のような就職先を選ぶか
  • デザインと事務の仕事を切り離さないで仕事ができる「市川市」のような就職先を選ぶか

僕は、神戸市の職員でも、市川市の職員でもありませんが、もし業務内容だけ見て仕事を選ぶとしたら、今の自分なら「神戸市」の方のクリエイティブ枠を選ぶと思います。

理由は様々ですが、アイデアが出ない恐怖は二度と味わいたくないですし、ワークライフバランスが実現できない働き方は自分の目指すところではありません。

神戸市の職員であれば、自分がデザインする訳ではないのでアイデアが出ない恐怖に怯える事はありません。デザインを直接の仕事にしない事で、土日を含めてプライベートの時間を仕事と切り離すことができます。

一方で、デザイン学校を卒業したばかりの過去の自分が選ぶとしたら「市川市」の方のクリエイティブ枠を選んでいたと思います。やはり、仕事としてデザインを行うことが重要とその当時は考えていたからです。

ここでは、たまたま「神戸市」や「市川市」のクリエイティブ枠のことを紹介して見ましたが、ほかにも様々な選択肢があると思います。

「デザイン」と「事務」の領域を切り離しつつ、業界に身を置きたいということであれば、デザイン会社の事務として勤務する方法もありますし、美術系大学の事務として勤務する方法もあります。

「デザイン」と「事務」の領域を切り離さずに仕事がしたいのであれば、芸術系のNPO法人等で働くという道もあるかも知れません。

あるいは、今の時代は個人で起業することも比較的容易になっているので、自分で会社を起こして、「デザイン」と「事務」の領域を切り離さず働くという選択肢も考えられます。

要するに、「自分は今後、どんな働き方をしていきたいか?」という問いに、正解があるのではないかと思います。

自分はたまたま、デザイナーから事務職への転職を行い、「デザイン」と「事務」の領域を切り離して働くことのできる就職先を選びました。

やはり、アイデアが出ない恐怖、土日返上で働き続ける体力、常に良いデザインを出し続けなければいけないプレッシャー、などから解放されたかったという部分が大きかったです。

そして、デザインはデザインとして、仕事ではなく、自分が本当に作りたいと思うものを作って、純粋に楽しんでいきたいという思いもありました。

人によって職業を選ぶ基準は様々だと思いますが、自分の体験や考え方が、今後の職業選択において役立つ情報になれば嬉しいです。

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この記事を書いた人

一組織の中で奮闘する元デザイナー事務員。

一般大学の文系学部を卒業した後、デザイン専門学校に進学。

卒業と同時に広告デザイナーになるも理想と現実のギャップにさいなまれ、志半ばで離職。

その後、一般社会で事務員となる道を決意し、現在に至る。

このブログでは、元デザイナーが一般社会でデザイン力を活かしながら生きていく術をお伝えします。

デザインを副業にしたい方にも役立つ内容を発信していきたいと思います。

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