デザインの仕事のことを調べてみると、最近ではデザイナー職ではなく、事務職の枠組みの中でデザイン・クリエイティブの仕事ができる職種があったりします。
その中でも、自治体の「デザイン・クリエイティブ枠の事務職」は近年登場した新しい職種。
採用試験自体も、一般的な企業やデザイン会社の試験の形式と似通っているため、公務員試験のための独自の勉強がほとんど必要ありません。
そのため、様々な人材に門戸を開いています。
- 美大や専門学校を卒業した人
- 一般大学でデザインや美術関連の専攻で勉強した人
- 大学を卒業してデザイン専門学校で学んだ人
- デザインスクールに通ってWスクールをしている人
「あ、これなら自分も受けられるかも!?」という人もいるのではないでしょうか?
ただ、まだまだ比較的新しい職種ということもあり、「デザイナー」と「デザイン・クリエイティブ枠の事務職」の仕事の違いがよく分からないという人もいるでしょう。
そこで、今回は「デザイナー」と「デザイン・クリエイティブ枠の事務職」の違いについて解説していきます。
【結論】持続可能な働き方を目指すなら「デザイン・クリエイティブ枠の事務職」
結論からお伝えすると、持続可能な働き方を目指すなら断然「デザイン・クリエイティブ枠の事務職」を目指すことをおすすめします。
広告デザイナーとしてかつて働いていた自分自身もそうですが、小さなデザイン事務所やデザインプロダクションは売上が減ると当然利益が取れず、会社を畳むという選択肢に迫られます。
デザイナーとして独立して自分でデザイン事務所や会社を起こしていれば、自分の力で道を切り開ける人もいるでしょう。
ですが、最初のうちは会社やデザイン事務所に所属しながら雇われのデザイナーとして働き始める人がほとんどです。
もし、継続して長い期間働き続けたいのであれば、倒産や解雇のリスクが低い組織で働くというのもリスク回避のための選択肢の一つ。
その中の選択肢の一つが、自治体の職員である「デザイン・クリエイティブ枠の事務職」なのです。
自治体の職員ということは、身分としては地方公務員の身分に位置し、リストラや倒産は基本的にはありません。
福利厚生や社会保険も充実しているため、安心して持続可能な働き方ができるのです。
【仕事内容で比較】「デザイナー」と「デザイン・クリエイティブ枠の事務職」の違い
まずは、「デザイナー」と「デザイン・クリエイティブ枠の事務職」の仕事内容の違いについて見ていきましょう。
ざっくりと以下のような違いがあります。
- デザイナーは「デザインの力」で社会の課題を直接解決する仕事
- デザイン・クリエイティブ枠の事務職は、「デザインの力」で人と人をつなぐ仕事
それぞれ具体的にどのようなことを指しているのか、もう少し具体的に掘り下げていきます。
デザイナーは「デザインの力」で社会の課題を直接解決する仕事
「デザイン」という言葉だけ聞くと、一般的には現代アートやグラフィックデザインなどの美術作品を思い浮かべる人も多いようです。
ですが、本来「デザイン」という言葉には「設計する」という意味もあるように、何かを成し遂げるための手段のひとつであり、デザインすること自体が目的ではありません。
言い換えれば、デザインという手段を通じて社会の課題を解決するためにデザイナーは存在するのです。
究極、最終的な目的を達成できるのであればデザイン以外の手段を取ることもあります。
その点を誤解していると、自分が手がけたデザイン作品をいかに美しく魅せるか?ということに固執してしまい、目的と手段が乖離してしまいます。
ビジネスの世界で活躍するデザイナーは、アーティストとは違うという点をしっかりと認識しておきましょう。
デザイン・クリエイティブ枠の事務職は、「デザインの力」で人と人をつなぐ仕事
「デザイン・クリエイティブ枠の事務職」という職種は初めて聞いた、という人もいるかも知れません。
デザイナーでもなく、単なる事務職でもない、昨今台頭してきている比較的新しい職種です。しかも、デザインの世界とはほど遠い、地方公務員の一職種として登場しました。
公務員の世界は比較的古い体質が残ったままであることが多く、今までの画一的なやり方や考え方では住民サービスの質を向上させていくことが困難となっています。
そこで、外部の人材を登用したり、官民連携で業務を遂行したり、様々な取り組みをおこなっています。
ただ、外部の人材と協力して業務を進めるにしても、専門的な知識を持った行政内部の人間が居なければ、建設的な意見を交わしたり、効果的な施策や提案をおこなったりすることができません。
そこで、デザイン・クリエイティブに関する専門的な知識・技術を持った人材を登用して、内部から改革を起こそうとしているのです。
デザイン・クリエイティブ枠の事務職がいれば、「外部の人材」・「自治体職員」・「地域住民」、この三者が三位一体となって効果的な施策の企画・立案・デザインをおこなうことが可能となるでしょう。
【能力で比較】「デザイナー」と「デザイン・クリエイティブ枠の事務職」の違い
では、「デザイナー」と「デザイン・クリエイティブ枠の事務職」、それぞれどんな能力が必要とされるのでしょうか?
若干求められる能力に違いがありますので、その点について解説します。
デザイナーは、相手の要望に沿って自身のアイデアを直接カタチにする専門職
デザイナーの仕事と言えば、自身の制作物を通じてアイデアを形にすることがほとんどでしょう。
そのため、やIllustratorやPhotoshop、Canvaのようなグラフィック系ソフトの習得、CADや映像系ソフトの学習など、専門的なスキルを磨いてきた人も多いです。
一方で、ただ制作物をつくるだけでなく「相手の要望に沿って」という枕詞が付きますので、基本的に自分がつくりたいものを好き勝手つくれるわけではありません。
自分がつくりたいものをそのまま作るのは、「デザイナー」ではなく「アーティスト」と呼ばれる職種の人たちです。
(といっても、最近ではアーティストと呼ばれる職種であっても、世論や世界情勢を相手に作品作りをする人も増えていますが。)
デザイナーはアーティストではないので、いかにクライアントの要望を正確に汲み取れるかという高度な能力も求められます。
アイデアを形にするだけでなく、相手の要望に沿ったデザインをおこなわなければならないため、専門職としての要素が強くなってくるのです。
参考:デザイナーの仕事とは?仕事の種類と年収・キャリアアップのポイント | Tech & Device TV (hp.com)
デザイン・クリエイティブ枠の事務職は、組織を改革しながら社会課題を解決する総合職
では、「デザイン・クリエイティブ枠の事務職」についてはどんな能力が求められるのでしょうか?
単刀直入に言うと、デザイン・クリエイティブ枠の事務職はただ単にアイデアを形にして終えるのではなく、それらのアイデアをもとに「大きなプロジェクトを遂行していく存在」と言えるでしょう。
今までの事務職といえば、決められた業務を正確にこなして、目の前にある書類の山を効率よくさばける人が求められてきました。
しかし、現代社会ではそのような仕事の進め方はChatGPTのようなAIやパソコンソフトの発達により、段々とその地位を奪われつつあります。
その一方で、デザイン・クリエイティブ枠の事務職は、組織改革をおこないながら、外部人材とも連携し、今まで成しえなかった大きなプロジェクトを遂行させていくことも可能。
言い換えれば、「柔軟な発想を持った外部人材」と「前例踏襲要素の強い内部人材」をつなげるコーディネーターのような役割も担っているのです。
それぞれの力が存分に発揮できれば、既存の施策には無い大きなエネルギーを社会全体に還元していくことが可能となるでしょう。
そのために、今、デザイン・クリエイティブ枠の事務職の存在が必要不可欠となっているのです。
参考:神戸市が採用に「デザイン・クリエイティブ枠」を設ける理由 | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)
【年収で比較】「デザイナー」と「デザイン・クリエイティブ枠の事務職」の違い
次に、「デザイナー」と「デザイン・クリエイティブ枠の事務職」の年収で2つの職種を比較していきましょう。
デザイナーの平均年収は459万円
ここでは、デザイナーの中でも一般的な「広告デザイナー」の年収についてピックアップしました。
平均年収でいうと、459万円となります。
デザイナー職の中には、広告代理店だけでなく、制作会社や小さなデザイン事務所も含まれます。
会社の規模や個人の力量にも左右されるかもしれませんが、一般的な会社員とあまり変わらない年収ですね。
著名なデザイナーや、フリーランスなど個人の力量にも左右されると思いますが、平均値を取るとこのような結果になります。
デザイン・クリエイティブ枠の事務職の平均年収は681万円
次に、デザイン・クリエイティブ枠の事務職の平均年収ですが、もともと公務員の事務職という括りになるので、そのカテゴリーで見ていきます。
平均年収でいうと、681万円。
デザイナーとの年収の比較でいくと、200万円以上、デザイン・クリエイティブ枠の事務職の方が年収が高いですね。
民間企業だと、いわゆる期末・勤勉手当などのボーナスが支給される所と、支給されない所がありますが、公務員は必ずボーナスが支給されます。
さらに、今回は一般的な民間企業と比較したわけではなく、民間のデザイナー職との比較をおこなっているため、ここまで差が開きました。
もし、大きな広告代理店の中のデザイナーとの年収比較であれば、同じくらいの年収になったのかも知れませんが、今回はこのような結果になりました。
いずれにせよ、デザイン・クリエイティブ枠の事務職の年収は恵まれていると言えるでしょう。
【将来性で比較】「デザイナ-」と「デザイン・クリエイティブ枠の事務職」の違い
「デザイナ-」と「デザイン・クリエイティブ枠の事務職」の将来性についても、比較していきましょう。
デザイナ-の将来性
デザイナーからステップアップしていくと、アートディレクターやクリエイティブディレクターという職種で活躍する人も増えていきます。
画像引用:アートディレクターとは?仕事内容や年収、必要なスキルを解説 | マイナビクリエイター (mynavi-creator.jp)
それぞれの職種には役割があり、アートディレクターやクリエイティブディレクターにステップアップすると、年収も上がっていく人がほとんどでしょう。
さらに、アートディレクターにステップアップした人はクリエイティブディレクターにステップアップするだけでなく、役員やフリーランスになるという道もあります。
画像引用:アートディレクターとは?仕事内容や年収、必要なスキルを解説 | マイナビクリエイター (mynavi-creator.jp)
会社に残って活躍するか、はたまた、フリーランスになって自分の裁量で活躍していくか、様々な道が開けています。
デザイン・クリエイティブ枠の事務職の将来性
デザイン・クリエイティブ枠の事務職は基本的には地方公務員の事務職ということになりますので、そちらをベースに将来性を見ていきましょう。
画像引用:【公務員の役職】偉いのは誰だ!恥をかく前に覚えておこう! | 公務員のライト公式HP (senseikoumuin.com)
ここでは、一般的な階級表を利用しているため、各自治体により役職の呼び名は異なると思います。
市町村の階級としては1級や2級の係員等の役職から、係長・課長・総括課長・部長とステップアップしていきます。
比較的人口の大きい政令指定都市となると、都道府県のように、市長部局などの大きな組織が存在するため、部長よりも上の役職に就くことも可能。
ただし、デザイン・クリエイティブ枠の事務職は新しく新設されたばかりの役職ですので、従来通りに昇給していくとは限りません。
もしかしたら、近い将来、自治体によってはクリエイティブ専門の部署が作られるかも知れません。
就職・転職するなら「デザイン・クリエイティブ枠の事務職」がおすすめの理由
自分は「デザイナー」に向いているのか、それとも、「デザイン・クリエイティブ枠の事務職」のどちらに向いているのか、中々判断できないという人もいるでしょう。
結論からお伝えすると、これから就職・転職を考えるなら「デザイン・クリエイティブ枠の事務職」の方をおすすめします。
理由としては、以下の4点が挙げられます。
- デザイナーは、今の時代は飽和状態
- デザイン・クリエイティブ枠の事務職の方が大きな業務に携われる
- 外部のデザイナーと一緒に仕事をすることも可能
- 安定した生活を保ちながら、デザインの仕事ができる
それぞれ、具体的に見ていきましょう。
デザイナーは、今の時代は飽和状態
スマホやパソコンが普及するにつれて、かつて手描きでおこなわれたデザイン作業はアプリの機能やエフェクト等で簡単に実現できるようになりました。
さらに近年ではAIのような自動生成プログラムにより、誰もがプロの制作物に近いデザインを作成できるようになりつつあります。
そのため、今の時代はただ単にデザインができるというスキルのみではなく、プラスアルファのスキルを持って活躍することが求められています。
デザイン・クリエイティブ枠の事務職の方が大きな業務に携われる
デザイナーはデザインという枠組みの中でしか業務を遂行できないため、その枠を超えて仕事をするというのは困難です。
ですが、デザイン・クリエイティブ枠の事務職なら、以下のような業務に携われます。
ここでは、神戸市のデザイン・クリエイティブ枠の事務職の業務内容を例に挙げてみましょう。
広報・広聴、国際交流、生涯学習、地域福祉、コミュニティ活動支援、文化振興、区のまちづくり、観光振興、港湾振興、DX の推進、公営企業等の経営管理、用地買収、廃棄物処理の指導、消費者保護、税務、民間事業の指導等の業務
引用:令和5年度 神戸市職員(大学卒、高専・短大卒)デザイン・クリエイティブ枠採用試験案内
いかかでしょうか?
上記の業務内容をみて、「なんだか、とても面白そう!」という気持ちになった人はデザイン・クリエイティブ枠の事務職に向いているかも知れません。
外部のデザイナーと一緒に仕事をすることも可能
デザイン・クリエイティブ枠の事務職に求められる能力の1つとして、外部のデザイナーやデザイン会社と一緒に業務を遂行していくことが求められます。
今までの行政内部の職員だけで判断をしてしまうと、どうしても前例踏襲型の無難なデザインが採用されがちです。
内部にいるデザイン・クリエイティブ枠の事務職が、行政職員と外部の人材との間に入って両者の橋渡し役を担うことができれば、今までにない斬新なデザインを提案することも可能でしょう。
そのためには、デザイン・クリエイティブ枠の事務職は、両者の意見や要望をすり合わせ、調整する能力が求められます。
一見、少し大変な仕事にも思えますが、一個人や一組織の中では実現できなかったであろう大きなプロジェクトを遂行することが可能となります。
今までにない、新しい施策の企画・立案・実施ができるのも魅力となって、やりがいを感じることができるでしょう。
安定した生活を保ちながら、デザインの仕事ができる
一般的なデザイナーと違い、デザイン・クリエイティブ枠の事務職は安定した収入を得られるという点で、精神的にもかなり余裕を持って業務を進めることが可能です。
明日の生活を心配しながらクリエイティブな発想をするというのは、ほとんど不可能と言えるでしょう。
その点、デザイン・クリエイティブ枠の事務職は公務員という枠組みの中で仕事進めていくので、そのあたりの心配はほとんど必要ありません。
良質なアイデアは、良質な心身を保ってこそ生み出されるものです。
デザイン・クリエイティブ枠の事務職を目指してスキルを身に付けよう
デザイン・クリエイティブ枠の事務職は、デザイナーと求められる能力は異なるものの、採用の入り口の段階では同程度の能力を求められます。
事務職とはいえ、デザイナー職と同程度の知識・技術を求めれるため、実務経験や専門的な分野で学んできたことの能力習得は必須となります。
美大生やデザイン専門学校を卒業した人だけでなく、受験資格があれば一般大学を卒業した人(卒業する予定の人)でも受験自体は可能です。
ただし、何かしらのデザイン・クリエイティブ分野における実績や成果が必要となるため、何もアピールするものが無いという人はそちらの作品作りに専念しましょう。
より多くの人がデザイン・クリエイティブ枠の事務職への転職に成功できるよう引き続き応援していきます!
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