公務員のデザイン職は、ほとんどの自治体で美術やデザイン、クリエイティブに素養のある人という条件で募集がされています。
そのため、美大や芸大の卒業は絶対条件ではありません。
ですが、おおもとの条件自体が「デザインやクリエイティブに素養がある人」ということになると、通常は美大や芸大でデザインや美術を学んできた人が想定されるでしょう。
もちろん、一般大学等でダブルスクールをしながらデザインを勉強している人もいるでしょうし、社会人から公務員のデザイン職を目指す人もいます。
今までは公務員を目指す人というのは、そういった一般大学に通う学生や、社会人からの転職組が大多数を占めていました。
ところが、令和の時代になって以降、様々な自治体で公務員のデザイン職である「デザイン・クリエイティブ枠」を設ける所が増えてきました。
公務員のデザイン職は、専門職であるデザイナーとは異なり、事務職の視点で様々な課題を俯瞰し、問題を解決していくための比較的新しい職種です。
もはや既存のやり方では、今の行政課題は解決できないという所まで来ています。
その点、今あるものを良さを最大限に引き出し、より多くの課題を解決できるデザインの力に、ようやく社会全体が気付き始めてきました。
今回は、そんなデザインやクリエイティブのことを専門的に勉強している美大生に向けて、公務員のデザイン職についてのお話をしようと思います。
公務員や自治体のデザイン職は純粋のデザイナーとは異なる職種
まず、公務員のデザイン職について簡単に触れておこうと思います。
現在、兵庫県神戸市、新潟県長岡市、富山県高岡市などでは、公務員のデザイン職である「デザイン・クリエイティブ枠」の事務職を毎年のように募集しています。
千葉県市川市のように不定期に募集する自治体もありますが、現在も継続して採用活動をおこなっている自治体は多いです。
「デザイン・クリエイティブ枠」については、職種としては専門職のデザイナーではなく、事務職としての募集となります。
そのため、自分でデザイン制作をおこなうというよりは、その知識や技術を活かしながら、行政職員やデザイナーの間に立って、コーディネーター的な役割を果たすことがメインとなります。
デザイナーとデザイン・クリエイティブ枠の事務職についての違いを、より詳しく知りたい方はこちらの記事も参考にしてみてください。
とがったデザイン力よりも、総合的なデザイン力が試される
一般的に、デザイン業界やエンタメ業界では他の人には表現できない個性的なデザインや表現方法を駆使した作品が好まれます。
なぜなら、そうしないと他の多くの魅力的な作品に、自分の作品が埋もれてしまうからです。
そうして、美大やデザイン学校で培ったデザインの力を発揮して、広告やデザインの仕事をしていくのがデザイナーの仕事となります。
大半の美大生はこちらのグループに属し、電通や博報堂などの大手の広告代理店や、広告制作プロダクションなどに就職するというのが一般的。
あるいは、自分の世界を追求し続けるため、大学院への道を選んだり、フリーで働いたり、作家やアーティストの道へ進む人も多くいます。
一方、公務員のデザイン職はそういったとがったデザイン力ではなく、総合的なデザイン力が求められます。
自分がガンガン前に出て創作活動をおこなうというよりは、行政と事業者の間を取り持ち、双方の力が最大限に発揮される調整をおこないます。
デザインの専門的な知識が無い自治体の職員に、分かりやすくデザイン言語を嚙み砕いて説明することも必要でしょう。
それとは逆に、仕事を委託するデザイナーやデザイン制作会社に、行政の難しい課題や専門用語を分かりやすく伝える力も求められます。
双方の視点から、よりよい解決策を導いていくのが「デザイン・クリエイティブ枠の事務職」の仕事の醍醐味ともいえるでしょう。
公務員のデザイン・クリエイティブ枠が美大生にもおすすめの理由5選
では、そんな公務員のデザイン職である「デザイン・クリエイティブ枠」という職種が、なぜ美大生にもおすすめできるのかについて、触れていきます。
公務員のデザイン・クリエイティブ枠が美大生にもおすすめできる理由は以下の5つ。
- 参入障壁が少しだけ高いため、ライバルが少ない
- デザインの価値に、国・企業・自治体が目覚めた
- 書類審査に必要な作品ストックがすでにある
- クリエイティブな力を発揮する職場としては、生活や収入が安定している
- 既卒でも新卒枠で受験できる組織や自治体が多い
一つずつ、もう少し詳しく見ていきましょう。
参入障壁が少しだけ高いため、ライバルが少ない
公務員のデザイン職は、民間のデザイナー職募集の求人と異なり、ほとんどの組織で筆記試験が課されます。
デザイン業界でも大手の広告代理店や比較的大人数の制作プロダクションでは、筆記試験が課されますが、小さなデザイン事務所や少数精鋭の制作会社は面接と作品審査による所が大半です。
そのため、美大生にとっては、就職や転職のハードルがデザイナー職よりも若干上がります。
デッサンや実技の試験は得意でも、英語や数学、国語や一般常識、時事問題は苦手という美大生は意外と多いです。
そのため、高校時代までにきちんと美術以外の主要五科目(英語・数学・国語・理科・社会)をしっかりと勉強してきた人は、筆記試験の際に有利に。
公務員のデザイン職の試験では一般的に、筆記試験を突破しないと、面接やプレゼンテーション試験に臨むことができません。
筆記試験には最低合格ラインが設けられているため、ここのラインをクリアするための最低限の学力が必要です。
デザインの価値に、国・企業・自治体が目覚めた
僕がデザイナーを目指してデザインの勉強をしている時や、デザイン業界にいるときに比べて、デザインの社会的地位は近年ますます向上してきているように感じます。
ほんの数年前まで、公務員の業界がデザイン職を募集するなんて考えられませんでしたし、デザインのことを勉強する人は美術に素養がある人だけでしょ?というような風潮がありました。
ですが、モノや情報に溢れる現代社会では、アートやデザインの力が街おこしに活用されたり、ビジネスの世界では「デザイン思考」という戦略がもてはやされたり。
他にもグラフィックレコーディングという手法が取り入れられて、会議の議事録が作られたりと、時代は大きく変わってきました。
近年では、経済産業省でも「JAPAN+D」というプロジェクトが立ち上げられ、デザインの力が改めて見直され始めています。
この記事では、経済産業省のデザイナーではない立場の平山さんという職員がデザインの力を課題解決に活かすための奮闘が綴られています。
上記記事は途中までしか読めませんが、「JAPAN+D」の公式サイトから経済産業省がどのようにデザインに力をいれているのかが分かるので、ぜひ参考にしてみてください。
書類審査に必要な作品ストックがすでにある
多くの公務員のデザイン職の試験では、書類選考の際にアピールシートや簡単なポートフォリオの提出が求められます。
一般大学の学生の場合、このような作品ストックを持っている人は少ないため、この段階で採用試験からはじかれる可能性が高いです。
その点、美大生は普段の授業の課題や、自主制作作品、グループ展のために作った作品、コンテストに応募した作品等、手元に作品ストックがあるのが一般的。
そのため、数ある作品ストックの中から志望先に合わせてポートフォリオを編集し直せば、書類審査で困ることはほとんどないでしょう。
もし、苦戦するとしたら自己PRや志望動機を記載する欄になると思いますが、ここはしっかりと対策をしておけばそこまで身構える必要はありません。
自己PRや志望動機の書き方について心配な方は、こちらの記事↓も参考にしてみてください。
クリエイティブな力を発揮する職場としては、生活や収入が安定している
デザイナーとしてクリエイティブな業界に就こうとした時、現実問題として生活や収入が安定しているのか、誰もが気になる所でしょう。
デザインやクリエイティブの世界では、締切前は納期に追われ、徹夜・残業が続くということも少なくありません。
また、待遇面でも駆け出しのころは薄給のため、ギリギリで生活している人も多いです。
その点、公務員のデザイン職であれば、事務職として働くことになるので、土日は基本的に休めて、ボーナスや残業代も働いた分だけきっちりと支給されます。
一般的なデザイナー職と違って、この点は大きな魅力。
生活や収入が安定していれば、精神的にも肉体的にも健康的な身体を維持することができ、良い成果を生み出すための好循環が生まれます。
民間企業と比べても、公務員の給与、手当や福利厚生はかなり充実しています。
既卒でも新卒枠で受験できる組織や自治体が多い
一般的な就職活動をしていると、新卒のタイミングを逃してしまうと、就職試験すら受けれ無くなってしまうという日本特有の慣習があります。
いわゆる新卒一括採用と呼ばれる採用活動です。
その年にすべての就職活動に失敗した学生は、新卒枠での再起をはかるためにわざと留年して、次年度にリベンジを図るという強者もいます。
ですが、一般的な公務員試験は、新卒であろうが既卒であろうが、年齢や受験資格さえ満たしていれば、毎年何度でも挑戦することが可能です。
驚いた人もいるかもしれませんが、受験のための費用も毎年何回トライしても、一切かかりません。
もちろん、自治体ごとに年齢制限が設けられているので、無限に受験できるわけではありませんが…。
多くの自治体では、新卒枠を30歳前後までで区切っている所が多いようです。公務員のデザイン職も、一度不合格になったからと言ってすぐに諦める必要はありません。
もし、もう一度受験しようと思ったら、年齢制限や受験資格さえクリアしていれば何度でも挑戦できるのです。
美大から公務員や自治体のデザイン職に就くのは、もやは当たり前の時代に
今回は、美大生にとっても公務員のデザイン職は魅力的な就職先候補の一つになり得るという内容で書きました。
実際、美大から公務員のデザイン職に就いている人は多数います。
「自分の身近では見たことも聞いたこともないよー」という人は、ぜひ志望する自治体の説明会等に参加して、先輩職員やOBの話を聞きに行ってみてください。
クリエイティブな業界ではなく、なぜ公務員のデザイン職を選んだのか?仕事のやりがいは?
などなど、自分の志望動機を掘り下げるときのヒントも得られるかも。
かつては、美大生が公務員の業界を目指すなんてあり得ないという風潮があったかも知れません。
ですが、令和の時代に突入した今、美大生こそが公務員のデザイン職について社会を変えていく人材になり得るのです。
少しでも興味を持った人がいたら、ぜひ自分の就職先候補の一つに公務員のデザイン職を入れてみてください。
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