たびたび、このブログでも触れているように、私はこれまで民間企業でグラフィックデザイナーとして働いてきました。
デザイン事務所や広告制作会社に勤める中で、チラシやポスターの制作、企業ブランディング、キャンペーン企画など、幅広い案件に携わる機会もありました。
仕事はスピード感があり、トレンドに敏感でいる必要もありましたが、その分、刺激に満ちた日々。
一方で、ふと「誰のために、何のためにこのデザインを作っているんだろう?」という疑問が心に残るようにもなっていました。
民間のデザイナーを辞めてから既に10年以上の長い月日が流れていますが、そんなさなかで知ったのが「公務員のデザイン職」という新しい職種です。
それまで、“公務員”と“デザイン”はまったく別の世界だと思っていた私にとって、その発見は意外で、同時にとても興味深いものでした。
調べていくうちに、自治体や公共機関においても「デザイン」が重要視され始めていることを知りました。
- 誰にでも伝わる言葉選び
- 見やすいレイアウト
- 正確な情報設計
——これらは行政サービスの質を大きく左右します。
そこで今回は、元・民間デザイナーのぴりおどが、公務員デザイン職を勧める理由について記していこうと思います。
公務員のデザイン職の魅力とは?

公務員のデザイン職には、民間とはまた違ったやりがいや特性があります。 ここでは、特に大きな魅力といえる3つのポイントを紹介します。
- ユーザーの顔が見える「相手に届くデザイン」
- 地域を支える“道具”としてのデザイン
- 継続的に改善し、育てていける媒体に関われる
以下で、それぞれ詳しく解説していきます。
ユーザーの顔が見える「相手に届くデザイン」
民間ではクライアントの要望に応えることが最優先で、直接そのサービスを使う人の顔が見えにくいこともあります。
一方、自治体の広報誌、防災マップ、子育て支援ガイドなどの制作物は、地域住民という“はっきりとした利用者”に向けたものです。
誰に届けるのかが明確だからこそ、ユーザーの年齢層や環境に合わせた情報設計が必要とされます。
たとえば、高齢者にも読みやすい文字サイズ、色覚に配慮した配色、多言語対応といった配慮が自然と求められるのです。
「相手にきちんと届くデザインをつくる」——それは、表現力だけでなく“想像力”と“共感力”が必要な仕事だと思います。
地域を支える“道具”としてのデザイン
公務員デザイン職では、観光誘致や定住促進、地域ブランディング、防災対策など、暮らしのさまざまな場面に関わる広報に携わります。
それらは、単に「見せる」ためのデザインではありません。
地域課題を正しく伝え、興味を持ってもらい、行動につなげることが目的です。
たとえば、観光ポスターであれば「行ってみたい」と思わせる情報とビジュアルが必要ですし、防災マップであれば、迷わず避難行動に移れる設計が求められます。
つまり、デザインは地域課題を“解決するための手段”として使われているのです。 そこに、強い意義を感じる人も多いはずです。
継続的に改善し、育てていける媒体に関われる
民間の案件では、納品後に関係が切れてしまうこともよくあります。
一方、自治体の広報や公共資料は、継続的に発行・更新されていくものが多く、一つの媒体を「育てる」ような感覚で関わることができます。
たとえば、広報誌のレイアウトを少しずつ改善していったり、住民アンケートの結果を次回のデザインに反映させたりと、継続的にブラッシュアップしていけるのです。
これは、「よりよくしていくプロセス」にやりがいを感じるタイプのデザイナーにとっては、とても魅力的な環境だと思います。

民間経験が活きる具体的な4つの場面

公務員のデザイン職に興味を持っている方の中には、「民間経験がそのまま活かせるのだろうか?」と不安に感じる人もいるかもしれません。
実際、民間で培ったデザイン力や調整力、情報整理のスキルは、自治体業務においても広く活かされています。
ここでは、民間出身のデザイナーが行政の現場で活躍できる具体的な場面を、4つご紹介します。
- スピード対応が求められる場面での経験
- 限られたリソースで最大の成果を出す工夫
- 調整力とヒアリング力を活かせる現場
- ビジュアルと言語をつなぐ視点
以下、それぞれ詳しく見ていきましょう。
① スピード対応が求められる場面での経験
自治体での仕事というと、スピード感がなさそう…というイメージを持たれるかもしれません。
でも実際には、災害時や緊急発表があるときなど、迅速な対応が求められるシーンも多く存在します。
民間で身につけた即応力やスケジューリングの技術は、こうした場面でも非常に頼りにされます。
② 限られたリソースで最大の成果を出す工夫
自治体の制作物は、予算や人手に限りがあるなかで進められることが大半です。
その中で、いかに効果的に情報を届けるかは、民間での実践経験が活きるポイントです。
たとえば、無料ツールを使った工夫や、配色やレイアウトの最適化など、小さな工夫の積み重ねが大きな違いにつながります。
③ 調整力とヒアリング力を活かせる現場
行政の現場では、複数の部署や地域住民、議員など、関係者が多岐にわたります。
その中で円滑に情報を整理し、伝わる形に仕上げるには、コミュニケーション力が欠かせません。
民間でのクライアント対応の経験があれば、要望の本質をくみ取った提案や、丁寧なすり合わせが得意なはずです。
これらのスキルは、まさに行政現場で重宝される要素です。

④ ビジュアルと言語をつなぐ視点
行政広報では、文字情報とビジュアルの両立が求められます。 文字だけでは伝わらない情報を図やイラストで補い、誰にでも分かる形で情報を届ける。
そのためには、情報設計やビジュアル表現の力を組み合わせる力が求められます。
これもまた、民間でグラフィックやWeb制作を経験した人にとって、発揮しやすいスキルです。

こんな人にこそ、公務員デザイン職をおすすめしたい

公務員のデザイン職に向いているのは、目立つ表現よりも“伝わること”を優先できる人です。 この仕事では、いかに正確に、そしてやさしく情報を届けるかが問われます。
以下のような思いや特徴を持つ人に、特におすすめしたい仕事です。
- デザインを「誰かの役に立てたい」と思っている人
- 情報整理や文章設計が得意な人
- 地域や人とつながる仕事に興味がある人
- 長期的な改善プロセスにやりがいを感じる人
- 公共性のある仕事に関わってみたい人
「もっと意味のあるデザインをしたい」「人の役に立つ仕事がしたい」と考えている方にとって、公務員デザイン職はまさにその思いを形にできるフィールドです。
民間のデザイン現場では味わえなかった“社会とのつながり”や、“地域に根ざした影響力”を実感できる機会が数多くあります。
また、行政の広報や情報発信に求められるのは、特別なスキルや奇抜な表現ではなく、「丁寧に、正確に、わかりやすく伝える力」。
そうした姿勢を持つ人こそが、住民の暮らしを支える存在になれるのではないでしょうか。
おわりに|伝える力で、地域の未来を支える

公務員のデザイン職は、まだ一般的にはあまり知られていない分野です。
ですが、広報や政策の“伝え方”がそのまま住民の理解度や満足度につながる今、必要性は確実に高まっています。
民間とは違い、数字では測りにくい部分もありますが、「自分の仕事が誰かの暮らしを支えている」と実感できることが、この職種のいちばんの魅力かもしれません。
この記事が、公務員のデザイン職に少しでも興味を持っている方の背中をそっと押せるような内容であれば幸いです。
このブログでは、今後も「伝わる行政」を目指す人たちに向けて、情報やヒントを発信していきます。
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