今回はデザインや美術つながりということで、最近アニメ化もされた、美大を目指して青春を燃やすスポ根受験マンガについて、元デザイナーの僕が感じたことを綴っていこうと思います。
事務仕事の傍ら、創作意欲を掻き立てるための材料としてもうってつけ(?)なので、是非ともオススメしたいマンガの一つということになります。
『ブルーピリオド』第1巻のあらすじについて
このマンガについて初めて知ったという人もいるかも知れないので、簡単にあらすじについて触れておこうと思います。
成績優秀かつスクールカースト上位の充実した毎日を送りつつ、どこか空虚な焦燥感を感じて生きる高校生・矢口八虎(やぐち やとら)は、ある日、一枚の絵に心奪われる。その衝撃は八虎を駆り立て、美しくも厳しい美術の世界へ身を投じていく。美術のノウハウうんちく満載、美大を目指して青春を燃やすスポ根受験物語、八虎と仲間たちは「好きなこと」を支えに未来を目指す!
Amazonの商品説明より
主人公の八虎は美大を目指す受験生として登場します。
成績も優秀でスクールカーストの上位にいるのに、わざわざいばらの道(?)である美術の道にわざわざ足を踏み入れなくても、無数の選択肢があったはずですが。
やはりアートや美術、デザインの世界は魅力的にみえるし、奥が深いということなのでしょう。
かつて学生だった自分も、つまらない授業はそっちのけで、八虎のようにノートの端にシャカシャカと絵を描いていました。
ちなみに第1巻に収録されているタイトルは
【1筆目】絵を描く悦びに目覚めてみた
【2筆目】有意義な時間
【3筆目】全然焼けてねえ
【4筆目】マジ神じゃない
というようなタイトルになっています。せっかくなので、ほかの書評ブログとは違う視点から、それぞれのストーリーについて見ていきたいと思います。
【1筆目】絵を描く悦びに目覚めてみた
美術やデザインの世界に全く興味がなかった人間が、どうしてそちらの世界に目覚めることになったのか?
僕はこのマンガを読み進めながら、そのことに興味・関心が強く向いていました。
きっかけは美術部の先輩の1枚の絵、それに学校の美術の時間の「私の好きな風景」という課題、そして仲間と過ごした早朝の渋谷の世界。
これらの要素が折り重なって、主人公の八虎は絵を描くことの面白さ、奥深さに気づいていきます。
成績優秀でスクールカーストの上位にいて、ある程度なんでもできてしまう器用な八虎にとって、絵を描くことは唯一うまくこなすことのできなかったジャンルとも言えます。
元々デザインの世界にいた僕からすると、自分の想いや感情を絵にすることは非常に高度で難しいことのように思ってしまいます。
テクニックとは別に、夢中で作品を作ったり描いたりしているときは、そんな余計なことは考えずただただ、ひたすら夢中で自分が感じた世界を描こうとします。
そうすると、なぜか、必ず、その想いが絵や作品という形になって観た人に伝わる瞬間があります。
マンガの中でも、その過程が非常に上手に描かれてします。いくら技術的に絵がうまくても、ただうまいだけでは伝わらないのはデザインの世界でも一緒です。
こればっかりは、AIがいくら発達しても変わらない事実だと思いますし、AIに唯一真似出来ないことの1つかも知れません。
感情を込めて、想いを込めて作った作品は、本当にうまいだけの作品とは「何か」が違うのです。
この「何か」を説明するのはとても難しいのですが、強いて言うならば「熱量」といったところでしょうか。

【2筆目】有意義な時間
第2話では、退屈な日常から自分が本当にやりたいことを見つけて、主人公の八虎が生きているという実感を持つまでの過程が描かれています。
国語、算数、理科、社会、英語などの教科と違って美術には正解がありません。
成績優秀な八虎がこの正解のない美術の世界に次第に引かれていったというのも共感が持てます。
なんでも出来てしまう、言って見れば器用貧乏な八虎にとって、美術だけが唯一自分の思い通りにならない世界だったとも言えます。
そして、家庭の経済的事情から学費が高い多摩美や武蔵美のような私立系美術大学ではなく、国立の東京藝術大学を目指すという目標も八虎の野心に火をつけたようです。
僕は美大出身ではありませんが、デザイン専門学校も私立系の美大と同じくらい学費がかかります。

【3筆目】全然焼けてねえ
このタイトルを見たときは、第3話のこのタイトルの意味が分かりませんでしたが、読み終えてみて理解することが出来ました。
結論から言うと、夏休みの美術課題として
- デッサン7枚(素材の違うもの3点以上、時間は1枚5時間)
- 水彩3枚(素材の違うもの3点以上、時間は1枚5時間)
- スクラップブック(いいと思った絵、写真、文章などを貼り付けたり描いたり)
- 1日1枚写真(構図を意識して撮影し、プリントしたものを提出)
- 作品1点(サイズ、画材、立体、平面、映像、漫画など何でもOK)
という課題が出され、八虎はクソ真面目にこれらの課題をひたすらに夏休み中こなし続け、全然日焼けすることなく、夏休みを終えたと言うことです。
少しでもデザインや美術の世界に触れたことのある人なら共感してもらえると思うのですが。この課題、結構重いですよね(苦笑)
ただ量をこなすだけでなく、1つ1つ、1枚1枚、全て全力で取り組むとなると、物凄い時間と労力が必要になります。
美術やデザインの世界はぱっと見オシャレな世界に見えますが、その実態はかなりの体力勝負です。
ちなみに主人公の八虎もひたすら絵を書き続けて、ベッドに倒れこんでるシーンが描かれていますが、物凄く共感してしまいます(苦笑)

【4筆目】マジ神じゃない
第4話では、ついに主人公の八虎が美大受験予備校の冬期講習に通うことになります。
ブルーピリオドの作中では、その予備校生の一人に高橋世田介(たかはし よたすけ)くんと言う高校生が通っていたのですが、その子の絵のレベルが段違いに上手いのです。
しかも石膏デッサンをしたのは初めてです、という神っぷり。
自分もデザイン専門学校受験のために美大受験予備校のアトリエに通っていましたが、学校の美術の授業のレベルとは天と地ほどの違いがある言っても過言ではありません。
でも、八虎がすごいのは、この世田介くんの作品をみて「悔しい」と感じたことだったのです。
通常、あまりに自分のレベルと掛け離れた人の作品をみると、「あの人は才能あるからなあ」とか「自分とは見ている世界が違うなあ」と感じたりするものですが。
八虎は「悔しい」と感じたのです。
本当にすごいですよね。僕はプロのデザイナーやアートディレクターの作品を見て、悔しいと感じるようになったのは、本当にデザインの勉強をし始めて何年の経った後だったと思います。
デザインのことを勉強すればするほど、今現在一流と呼ばれている方たちの作品と、自分の作品との間にある”大きな大きな壁”があることが嫌でも分かってしまいます。
このマンガを読むと当時のことを思い出すと同時に、作品を作り出す生みの苦しみや喜び、達成感や挫折、様々な感情が呼び覚まされます。
いいことなのか、悪いことなのか。すでにデザインの世界から身を引いている自分に創作意欲を駆り立たせてくれる貴重なマンガとも言えます。
『ブルーピリオド』第1巻を読み終わってみての感想
いや、第1印象は内容がリアルでとても面白かったと感じると同時に、かなり重い内容だったなあ、という感想です(笑)
美術やデザインの世界って華やかで面白そうな世界に見えてしまうかも知れないけれど、相当の覚悟がないとダメなんだな。
ということを、もともとデザインの世界にいた自分は改めて実感してしまいました。
実際のところは、かなり地味な作業が毎日続くし、体力も精神力も相当にタフでないとデザイン業を継続することは厳しいと言わざるを得ません。
自分は運よくデザイナーになるという夢は叶ったし、プロの現場で働くこともできました。
けれども、今は別の職業に就きながら自分の好きなことを続けながら、生きています。
好きなことを職業にすることだけが人生の正解ではないし、好きなことと本業を分けて生きて行くという選択肢もあります。
正解は人それぞれだと思いますが、やはり自分がどんな働き方をしたいか?ということに尽きるのではないかと思うのです。
僕は自分の体力や精神力、デザインのレベルなど、総合的に判断して、いまの事務仕事を選びましたが、それでも楽しく毎日を過ごしています。
事務仕事も最初はあまり面白さを見出すことができませんでしたが、税金や社会保険のことに詳しくなるにつれて生きていくのが、逆に少し楽になりました。
このブログもそうですが、今後は八虎のようにもう少し自分が好きなことや、やりたいことに割ける時間を増やして、人生を充実させていくのを目下の目標にしたいなー。
と、密かに企んでいます(笑)
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